第1 はじめに:むち打ちの後遺障害認定をいかに獲得するか
交通事故で多くみられる「むち打ち」。治療を継続しても、首や肩の痛み、手のしびれ、頭痛といった症状が残ってしまうケースは少なくありません。
これらの症状は、法的には後遺障害として賠償の対象となり得ますが、その等級認定を得ることは容易ではありません。なぜなら、むち打ちの症状の多くは被害者の自覚症状が中心であり、その存在を客観的に証明することが難しいからです。
後遺障害の認定機関は、①被害者が訴える「自覚症状」、②それを裏付ける「神経学的所見」、③「画像所見」、という3つの要素の整合性を重視します。
本稿では、これら3つの鍵をいかに揃え、ご自身の症状に見合った後遺障害等級(特に14級9号、12級13号)を勝ち取るか、その戦略的な立証方法について解説します。
本稿の構成
第2 むち打ちで認定される後遺障害等級(14級と12級)の違い
むち打ちで残存した症状は、主に以下の2つの等級に該当する可能性があります。両者は、症状の「証明の程度」によって区別されます。
1 後遺障害等級14級9号:「局部に神経症状を残すもの」
⑴ 認定の基準
残存する症状が、医学的に「説明可能」な状態を指します。
⑵ 解説
MRIなどの画像上、症状の原因が明確に確認できなくても、事故態様、治療経過、症状の一貫性、神経学的検査の結果などから、症状の存在が合理的に推測できる場合に認定されます。
2 後遺障害等級12級13号:「局部に頑固な神経症状を残すもの」
⑴ 認定の基準
残存する症状が、医学的に「証明可能」な状態を指します。
⑵ 解説
被害者が訴える症状の原因が、MRIなどの画像所見によって、椎間板ヘルニアによる神経根の圧迫などとして客観的に確認できる場合に認定されます。
第3 立証の3つの鍵(1)一貫性のある「自覚症状」の訴え
全ての立証の土台となるのが、事故直後から症状固定まで一貫した症状の訴えです。そして、最も重要なことは、その訴えを医師に正確に伝え、カルテに記載してもらうことです。短い診察時間で、漏れなく的確に症状を伝えるためには、以下の点を意識することが有効です。
⑴ 症状の部位・内容・強さを具体的に伝える
単に「首が痛い」ではなく、「首の右側付け根から肩にかけて、ズキズキと痛む。痛みは10段階のうち7程度」といった形で、具体的に表現します。
⑵ 症状の変化や悪化する状況を伝える
「上を向くと首に激痛が走る」「雨の日には頭痛が悪化する」など、症状が変化する具体的な状況を伝えます。
⑶ 日常生活や仕事への支障を伝える
「痛みのためにPC作業に集中できない」「しびれで箸がうまく使えない」など、具体的なエピソードを交えて伝えることが重要です。
⑷ 症状日記の活用
これらの情報を整理し、伝え漏れを防ぐためのツールとして「症状日記」を作成し、診察時に医師に提示することも有効な手段です。
⑸ 十分な通院実績の確保
自覚症状の存在を裏付けるためには、通院実績も重要です。一般的に、後遺障害認定には6か月以上の通院期間が必要とされます。また、痛みを我慢せず、週3回程度の頻度で積極的に通院することが望ましいといえます。
第4 立証の3つの鍵(2)「神経学的所見」
「神経学的所見」とは、神経学的検査によって得られる、神経系統の異常を示す客観的な情報です。自覚症状を裏付ける上で、不可欠な証拠となります。
1 症状の立証に有効な神経学的検査
後遺障害診断書に、以下の検査結果が具体的に記載されていることが重要です。
⑴ スパーリングテスト、ジャクソンテスト
頭部を傾けたり圧迫したりして、腕への痛みやしびれ(神経根症状)が誘発されるかを確認するテストです。陽性反応は、頚椎の神経根に問題があることを示唆します。
⑵ 腱反射テスト(深部腱反射検査)
打腱器で腱を叩き、反射の亢進(強すぎる)や低下・消失(弱すぎる・ない)といった反応を見ます。これらは神経の異常を示す所見となります。
⑶ 知覚検査
筆や針などで皮膚感覚を調べ、感覚が鈍くなっている(感覚鈍麻)範囲などを特定します。
第5 立証の3つの鍵(3)「画像所見」
「画像所見」は、症状の原因となっている身体の器質的な変化を可視化する証拠です。
1 症状の立証に有効な画像検査
⑴ レントゲン(X線)検査
骨折や脱臼の有無に加え、首を前後屈させて撮影する「動態撮影」では、頚椎の不安定性(骨のずれ)が確認でき、症状を裏付ける所見となり得ます。
⑵ MRI検査
むち打ちの後遺障害認定で最も重要な検査です。レントゲンでは写らない椎間板ヘルニアや神経の圧迫、靭帯の損傷といった軟部組織の異常を描出できます。
第6 立証の核心:「3つの鍵」の整合性
適切な後遺障害等級の認定を勝ち取るためには、「自覚症状」「神経学的所見」「画像所見」の3つの要素に、医学的な整合性が認められることが極めて重要です。
例えば、「MRIで第5頚椎と第6頚椎の間のヘルニアが神経を圧迫している(画像所見)」→「その神経の支配領域である腕から親指にしびれがある(自覚症状)」→「その領域の知覚検査で感覚鈍麻が認められる(神経学的所見)」というように、3つの要素が一貫して結びついていると、症状の存在を強く裏付けることができます。
第7 Q&A:「むち打ちの後遺障害」に関する疑問
Q1 レントゲンで「骨に異常なし」と言われました。後遺障害の認定は無理ですか?
A1 いいえ、諦める必要はありません。むち打ちの症状はレントゲンでは映らない骨以外の軟部組織の損傷に起因することが多いため、MRI検査で異常が見つかる可能性や、神経学的検査の結果などから、14級9号が認定される可能性は十分にあります。
Q2 軽微な事故かどうかは、認定に関係しますか?
A2 関係します。事故の規模(車両の損傷程度など)は、後遺障害認定の審査において重要な考慮要素となります。事故が軽微である場合、後遺障害が残存するほどの傷害が発生したのかが疑問視され、認定が厳しくなる傾向があります。
Q3 強い鎮痛剤や、痛み止めの注射は、認定に関係しますか?
A3 関係します。強い鎮痛剤(例:リリカなど)の服用や、神経ブロック注射などの治療を受けている場合、それだけ強い症状が存在することを示唆するため、認定において有利な要素となり得ます。
Q4 弁護士に依頼すると、これらの所見の獲得をどうサポートしてくれますか?
A4 弁護士は、後遺障害等級認定の見通しを立てた上で、どのような検査が必要か、医師にどのように症状を伝えるべきかなどを助言します。また、後遺障害診断書の作成を依頼する際に、等級認定のポイントをまとめた書面を医師に提供するなど、より適切な診断書が作成されるよう働きかけます。
第8 まとめ:3つの鍵を揃え、正当な等級認定を目指しましょう
交通事故によるむち打ちの症状は、外見からは分かりにくいため、その存在を証明し、正当な後遺障害等級の認定を受けることは容易ではありません。
被害者の自覚症状の訴えだけでは不十分であり、その訴えを「神経学的所見」と「画像所見」という客観的な証拠で裏付け、3つの要素の整合性を示すことが不可欠です。
そして、これらの証拠を効果的に揃えるためには、治療の初期段階から、計画的に検査を受け、医師に症状を的確に伝え続けるといった、専門的な知識に基づいた対応が求められます。
ご自身の症状に見合った、正当な後遺障害等級の認定を勝ち取るためには、症状固定を迎える前の早い段階で、交通事故と後遺障害問題に精通した弁護士にご相談ください。