肩が上がらない…。「腱板損傷」による後遺障害の等級認定ポイント

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弁護士コラム

肩が上がらない…。「腱板損傷」による後遺障害の等級認定ポイント

2026.01.21

第1 はじめに:事故後の「肩が上がらない」症状と腱板損傷の可能性

交通事故で転倒し肩を強打した後、数ヶ月治療を続けても、「腕が一定の高さまでしか上がらない」「シャツを着る動作で肩に激痛が走る」「夜中に痛みで目が覚める」といった症状が残ってしまうことがあります。

その症状の原因は、肩関節のインナーマッスルである「腱板」が、事故の衝撃によって損傷する「腱板損傷」が生じているのかもしれません。

そして、この「肩が上がらない」という症状は、肩関節の「機能障害」や痛みを残す「神経症状」として、後遺障害等級が認定される可能性があります。

しかし、適切な等級認定を受けるためには、損傷の事実と、それによって生じた障害の程度を、客観的な医学的証拠に基づいて正確に証明する必要があります。

本稿では、交通事故による腱板損傷とは何か、それによって認定されうる後遺障害等級、そして、適切な等級認定を勝ち取るための重要なポイントについて解説します。

本稿の構成

第1 はじめに:事故後の「肩が上がらない」症状と腱板損傷の可能性

第2 交通事故による腱板損傷の医学的知見

第3 損傷を客観的に証明するMRI検査の重要性

第4 腱板損傷で認定されうる後遺障害等級

第5 適切な等級認定を獲得するための3つのポイント

第6 Q&A:「腱板損傷と後遺障害」に関する疑問

第7 まとめ:客観的証拠に基づき、正当な等級認定を目指しましょう

第2 交通事故による腱板損傷の医学的知見

1 腱板の役割

腱板とは、肩甲骨と腕の骨(上腕骨)をつなぐ4つの筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)の腱の集合体です。腕を上げたり、回したりといった肩関節の複雑な動きを担い、関節を安定させる重要な役割を果たしています。このうち、腕を上げる動作を担う棘上筋の腱が最も損傷を受けやすいとされています。

 

2 交通事故での受傷機転

交通事故では、以下のような状況で腱板を損傷することがあります。

 

⑴ 肩の直接の強打

転倒した際に、肩を直接地面や壁に強く打ち付けた場合。

 

⑵ 手や肘をついた際の衝撃

転倒時にとっさに手や肘をついた際、その衝撃が肩関節に伝わって損傷する場合。

 

⑶ 腕を強く引っ張られた場合

バイクのハンドルを握ったまま転倒するなど、腕が強く牽引された場合。

 

3 主な症状

腱板を損傷すると、主に関節の動きの制限や痛み、脱力感が生じます。

 

⑴ 可動域制限

腕が上がらない、背中に手が回らないなど、関節の動く範囲が狭くなります。

 

⑵ 疼痛(痛み)

腕を上げる際の動作時痛のほか、安静にしていても痛む安静時痛、特に夜間に痛みが増して目が覚めてしまう夜間痛は、腱板損傷に特徴的な症状です。

 

⑶ 脱力感

腕を上げた状態で保持できない(ドロップアームサイン)など、肩に力が入らない状態です。

第3 損傷を客観的に証明するMRI検査の重要性

腱板損傷の後遺障害等級認定を目指す上で、その損傷の事実を客観的に証明することが最初のステップとなります。

 

1 レントゲン検査の限界

事故直後に行われるレントゲン(X線)検査は、主に骨の状態を確認するためのものです。腱板は軟部組織であるため、レントゲンには写りません。そのため、骨折がなくても「異常なし」と診断され、腱板損傷が見逃されてしまうケースがあります。

 

2 MRI検査の必要性

腱板損傷の確定診断に不可欠なのが、MRI検査です。MRIは、筋肉や腱といった軟部組織を鮮明に描出できるため、腱板がどの程度損傷しているか(部分断裂か、完全断裂か)を客観的に確認することができます。

このMRI画像で得られた「腱板損傷」という所見が、被害者の訴える痛みや可動域制限の原因を医学的に証明する「他覚的所見」となり、後遺障害等級認定における極めて重要な証拠となります。

第4 腱板損傷で認定されうる後遺障害等級

腱板損傷によって後遺症が残った場合、主に「機能障害」または「神経症状」として、以下の等級に該当する可能性があります。

 

1 機能障害(関節の可動域制限)

肩関節の可動域が、健康な側(健側)と比較してどの程度制限されているかで判断されます。

 

⑴ 第10級10号:「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」

患側の可動域が、健側の可動域の2分の1以下に制限された状態です。

 

⑵ 第12級6号:「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」

患側の可動域が、健側の可動域の4分の3以下に制限された状態です。

 

2 神経症状(痛み)

可動域制限が等級の基準に達しない場合でも、痛みが残存すれば、神経症状として認定される可能性があります。

 

⑴ 第12級13号:「局部に頑固な神経症状を残すもの」

MRI画像で腱板の損傷が明確に確認できるなど、痛みの原因が医学的に「証明可能」な場合に認定されます。

 

⑵ 第14級9号:「局部に神経症状を残すもの」

画像上、明確な損傷所見がなくとも、治療経過や症状の一貫性などから、痛みの存在が医学的に「説明可能」な場合に認定されます。

第5 適切な等級認定を獲得するための3つのポイント

腱板損傷で前述の等級認定を受けるためには、以下の3つのポイントを押さえることが不可欠です。

 

ポイント1:事故後早期のMRI検査で損傷の客観的証拠を得る

全ての前提として、MRI検査によって腱板の損傷が画像上で明確に確認されていることが必要です。

特に、事故との因果関係を証明するためには、事故後できるだけ早い段階でMRI検査を受けることが重要です。なぜなら、早期のMRI画像では、骨挫傷や関節内の液体貯留など、事故による「新鮮な外傷」を示す所見が写ることがあり、これが損傷の原因が加齢によるものではなく事故であることを示す有力な証拠となるからです。

 

ポイント2:正確な関節可動域の測定を実施する

機能障害の等級は、関節可動域の測定値によって判断されます。そのため、症状固定時に、医師に可動域を正確に測定してもらうことが極めて重要です。

 

⑴ 測定方法

医師が角度計を用いて、主要な運動方向(屈曲、外転など)について測定します。

 

⑵ 健側との比較

患側だけでなく、必ず健側(健康な側)の可動域も測定し、両者を比較した数値を後遺障害診断書に記載してもらう必要があります。

 

ポイント3:診断書上で、損傷と機能障害の因果関係を示す

後遺障害診断書において、「MRIで確認された腱板損傷が原因で、肩関節の可動域が〇〇度に制限されている」というように、画像所見(損傷)と可動域測定結果(機能障害)との医学的な関連性が明確に記載されていることが重要です。

第6 Q&A:「腱板損傷と後遺障害」に関する疑問

Q1 高齢のため、保険会社から「加齢による腱板損傷(経年性変化)だ」と言われました。

A1 中高年の方の場合、事故前から無症状の腱板損傷が存在していることがあります。しかし、事故の衝撃によって、無症状だったものが有症状化した場合や、既存の損傷が悪化した場合は、事故との因果関係が認められます。事故後早期のMRI画像で、骨挫傷や関節内の液体貯留といった「新鮮な外傷」を示す所見があれば、有力な証拠となります。

 

Q2 可動域の測定の際、どこまで動かせばよいですか?

A2 痛みを我慢して無理に動かす必要はありません。ご自身で動かせる範囲(自動運動)と、医師が動かせる範囲(他動運動)の両方を測定しますが、痛みを感じる可動域で測定してもらうのが基本です。

 

Q3 痛みはありますが、可動域制限は等級の基準に達しません。後遺障害は認められませんか?

A3 その場合でも、MRIで腱板損傷が確認されていれば、機能障害ではなく、痛みそのものを「神経症状」として、後遺障害等級12級13号または14級9号が認定される可能性があります。諦めるべきではありません。

 

Q4 手術をしましたが、可動域が改善しませんでした。

A4 腱板の修復手術をしても、残念ながら可動域制限が残ってしまうケースはあります。その場合も、手術後の症状固定の段階で可動域を測定し、残存した機能障害について後遺障害等級認定を申請することになります。

 

Q5 後遺障害診断書を医師に依頼する際の注意点はありますか?

A5 可動域の測定を、健側・患側の両方について、全ての運動方向で漏れなく実施してもらうよう、丁寧にお願いすることが重要です。また、MRIでの損傷所見を診断書に明記してもらうよう依頼してください。

第7 まとめ:客観的証拠に基づき、正当な等級認定を目指しましょう

交通事故後に生じた「肩が上がらない」という症状は、腱板損傷を原因とする「機能障害」や「神経症状」として、後遺障害に該当する可能性があります。

適切な等級認定を受けるための鍵は、

1 事故後早期のMRI検査によって、腱板損傷という客観的な損傷を証明すること。

2 医師による正確な関節可動域の測定によって、機能障害の程度を数値で証明すること。

という2つの客観的証拠を揃えることが重要です。

また、これらの証拠を確実に揃え、後遺障害診断書に適切に反映させるためには、医学的・法的な専門知識が不可欠です。

肩の痛みや可動域制限が残り、後遺障害の申請をご検討の場合は、交通事故問題に精通した弁護士にご相談ください。

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