主婦の休業損害、「働いていないから請求できない」という誤解。専業・兼業(パート)、育休中、むち打ちの場合の計算方法と、適正な賠償を得るためのポイント

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弁護士コラム

主婦の休業損害、「働いていないから請求できない」という誤解。専業・兼業(パート)、育休中、むち打ちの場合の計算方法と、適正な賠償を得るためのポイント

2026.03.12

第1 はじめに:「家事」は立派な労働であり、正当な賠償を受ける権利があります

交通事故の被害に遭われた際、「自分は専業主婦で、給料をもらっているわけではないから、休業損害は請求できない」と考えてしまっている方がいらっしゃいます。また、保険会社の担当者からも、「主婦の方は会社を休んで減収が生じているわけではないので、休業損害の対象にはなりません」といった、不正確な説明を受けるケースも少なくありません。

しかし、法的な観点から申し上げますと、これらは正確ではありません。

損害賠償の実務において、家事労働は金銭的な価値のある経済活動として認められており、専業主婦であっても、またパート勤務の兼業主婦であっても、事故による怪我で家事ができなくなったことに対する対価としての「休業損害」を請求する正当な権利があります。

本稿では、主婦の休業損害に関する誤解を解き、専業・兼業(パート)、育児休暇中、むち打ち症状、そして特殊な事情がある場合など、様々なケースにおける計算方法と、被害者の方が正当な賠償を受けるためのポイントについて解説します。

本稿の構成

第1 はじめに:「家事」は立派な労働であり、正当な賠償を受ける権利があります

第2 主婦休業損害の基礎知識:認められる理由と2つの算定基準

第3 【ケース別】主婦休業損害の計算方法(専業・兼業・育休中)

第4 Q&A:主婦の休業損害に関する疑問

第5 まとめ:家事労働の価値を正当に評価させるために

第2 主婦休業損害の基礎知識:認められる理由と2つの算定基準

まず、主婦の休業損害がなぜ認められるのか、その根拠と計算の基礎となる考え方、そして金額を大きく左右する「基準」の違いについて整理します。

1 主婦の休業損害が認められる理由

裁判実務において、家事従事者(主婦・主夫)が行う炊事、洗濯、掃除、育児などの労働は、家族のために行われるものであり、外部の家政婦などに依頼すれば当然に対価が発生する性質のものです。

したがって、現実に給与を得ていなくても、「事故による受傷のために家事労働に従事できなかった期間」は、経済的な損失が発生したとみなされ、休業損害の請求が認められます。

2 計算の基準となる「賃金センサス」

では、給与明細のない主婦の家事労働を、どのように金額の算定をするのでしょうか。

ここで用いられるのが、厚生労働省が実施している賃金構造基本統計調査、通称「賃金センサス」です。

実務では、原則として「女性労働者の全年齢平均賃金」を基礎収入として計算します。

例えば、令和5年の賃金センサスであれば年収399万6500円となり、日額に換算すると1万0949円(約1万1000円)が、主婦の1日あたりの基礎収入として認められます。

3 自賠責基準(保険会社基準)と弁護士基準の金額差

保険会社が提示する金額と本来認められる金額には、以下のように大きな乖離があることが多いため、注意が必要です。

⑴ 自賠責基準(保険会社の提示)

日額6,100円× 実通院日数など

保険会社からは、この最低限の補償額で提示されることが一般的です。

⑵ 弁護士基準(裁判基準)

日額約1万1000円× 相当な休業期間

弁護士が介入して交渉する場合の基準です。

 

このように、保険会社が提示する金額と本来認められるべき金額には、日額単価や休業期間の認定において大きな乖離が生じるため、弁護士に依頼することも検討してみてください。

第3 【ケース別】主婦休業損害の計算方法(専業・兼業・育休中)

主婦といっても、その就労状況は様々です。それぞれのケースにおける計算方法とポイントを解説します。

1 専業主婦の場合

前述の通り、「賃金センサス(女性・全年齢平均)」を基礎収入とします。

計算式:【基礎収入(日額約1万1000円)】×【休業日数(家事に支障が出た日数)】

休業日数は、治療経過に合わせて100%、50%、30%と段階的に制限割合を減らしていく方法(逓減方式)がとられることが一般的です。

2 兼業主婦(パートタイマー)の場合

パート収入がある兼業主婦の場合、以下の2つの計算式で算出された金額を比較し、「高い方」を休業損害として請求します。

⑴ 実収入に基づく計算

実際のパート給与額 × 休業日数

⑵ 平均賃金(賃金センサス)に基づく計算

賃金センサスの日額(約1万1000円) × 家事に支障が出た日数(逓減方式等)

多くのパート主婦の方において、実収入よりも賃金センサスの平均賃金の方が高くなります。

しかし、保険会社は「実際に減収となったパート代の分(⑴)」しか提示しないケースが多く見られます。安易に同意せず、家事労働者としての休業損害(⑵)を主張すべきです。

3 育児休暇中の場合

育休中(産休中)の方については、会社から給与や手当が支払われているか否かによって判断が分かれます。

原則として、給与が支払われている場合、保険会社からは「実際の減収がない」として休業損害は否定される傾向にあります。

しかし、たとえ給与の一部が支払われていたとしても、事故の怪我が原因で「家事労働に具体的な支障があったこと」を立証できれば、例外的に家事従事者としての休業損害が一部認められる可能性があります。

第4 Q&A:主婦の休業損害に関する疑問

Q1 「仕事もしていないのに」と加害者側に言われそうで怖いです。

A1 そのような遠慮は一切不要です。家事労働は、家族の生活を支える尊い経済活動であり、法的にも保護された権利です。弁護士が代理人となれば、加害者側と直接話す必要もなく、淡々と権利を主張できます。

Q2 夫(主夫)でも請求できますか?

A2 もちろん可能です。妻が働き、夫が専業主夫として家事を担っている場合、あるいは兼業主夫として家事の大部分を担っている場合などは、女性の場合と同様に請求が認められます。

Q3 高齢の主婦でも請求できますか?

A3 可能です。年齢に関わらず、実際に家事労働を行っていたのであれば請求できます。ただし、高齢になるにつれて平均賃金(センサス)の額が年齢別平均に修正されたり、既往症の影響が考慮されたりする場合があります。

Q4 一人暮らしですが、請求できますか?

A4 原則として、主婦休業損害は「他人のために家事を行うこと」が前提であるため、自分自身のために家事を行う一人暮らしの方は対象外とされます(給与所得者の休業損害の対象にはなります)。

しかし、例外的に、娘家族の家事を手伝っていた場合(近居の娘夫婦が共働きで、母が毎日通って家事や孫の世話をしていた等)には、実質的に家事従事者とみなされ、休業損害が認められる可能性があります。

Q5 むち打ち(頸椎捻挫)の場合でも請求できますか?

A5 骨折などがなく、「むち打ち」であっても、痛みやしびれ、可動域制限によって家事に支障が生じているのであれば、当然に請求できます。

ただし、むち打ちの場合は、事故直後から完治までずっと100%家事ができなかったと認められるわけではなく、治療期間を通じて徐々に割合を減らしながら(逓減方式)、相当期間の休業損害が認められる傾向にあります。

第5 まとめ:家事労働の価値を正当に評価させるために

主婦の休業損害は、被害者自身の「目に見える減収」がないため、保険会社から低く見積もられがちな項目の一つです。

「主婦だから請求できない」「パート代の補償だけで十分」といった誤解や、保険会社からの事務的な説明により、正当な権利を放棄してしまうことは、あまりにも不利益が大きすぎます。

特に、兼業主婦の方や、むち打ちで痛みを我慢しながら家事をこなしている方は、本来受け取るべき賠償額と提示額に大きな乖離がある可能性が高いです。

適切な賠償金を獲得するためには、示談書にサインをする前に、交通事故に精通した弁護士にご相談されることを強くお勧めします。

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