修理費だけでは終わらない。愛車の価値下落分「評価損(格落ち損)」を請求できる条件と、その立証方法

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弁護士コラム

修理費だけでは終わらない。愛車の価値下落分「評価損(格落ち損)」を請求できる条件と、その立証方法

2026.03.19

第1 はじめに:修理しても残る「事故歴」という損害

交通事故で愛車が損傷した場合、加害者が加入する保険会社によって修理費が支払われ、車両はきれいに修復されることが通常です。しかし、その車を将来売却しようとする際、査定額が「修復歴がある」との理由で、事故がなければ本来得られたはずの価格より大幅に低くなることがあります。

この「修理によっても回復しない、事故歴があることによる車両の価値の下落分」が、法律上の損害である「評価損」または「格落ち損」です。

保険会社は、原則として評価損の支払いを認めません。しかし、法的には、加害者は被害者が受けた全ての損害を賠償する義務(原状回復義務)を負っており、修理費だけでは回復できない価値の低下分、すなわち評価損も賠償の対象となり得ます。

本稿では、評価損とは何か、裁判実務において請求が認められるための具体的な条件、その損害額を立証するための方法、そして評価損に関する疑問について解説します。

本稿の構成

第1 はじめに:修理しても残る「事故歴」という損害

第2 評価損(格落ち損)とは何か

第3 評価損が認められるための具体的な判断要素

第4 評価損を立証するための具体的な方法

第5 Q&A:「評価損」に関する疑問

第6 まとめ:適正な賠償を受けるためには専門家への相談が不可欠です

第2 評価損(格落ち損)とは

評価損は、その性質から2つの種類に分類されます。

1 技術上の評価損

修理技術の限界により、事故車両に機能的な欠陥(走行時の異音や振動、車体の歪みなど)が残存し、その価値が低下した場合の損害です。これは、修理が不完全であることの証明であり、機能的な不具合を客観的に示すことができれば、損害として比較的認められやすいものです。

2 取引上の評価損

機能的な欠陥はなく、完璧に修理されたとしても、「事故歴・修復歴がある」という事実そのものが中古車市場における取引価格を下落させることによる損害です。保険会社が支払いを強く拒み、裁判でも主要な争点となるのは、主にこの取引上の評価損です。

第3 評価損が認められるための具体的な判断要素

裁判所が取引上の評価損を認めるか否かは、画一的な基準があるわけではなく、個別の事案ごとに以下の要素が総合的に考慮されます。

1 損傷の部位と程度

⑴ 骨格(フレーム)部分への損傷の有無

評価損の請求が認められるか否かを分ける最も重要な要素です。損傷が、自動車の骨格部分(フレーム、ピラー、クロスメンバー、フロア等)に及んでいることが、評価損が認められるためのほぼ必須の条件となります。これらの部位の損傷は、たとえ修理されても、車両の強度や安全性への懸念から中古車市場での価値を大きく低下させるためです。

これに対し、ドア、バンパー、フェンダーといった、ボルトで交換可能な外板部分の損傷のみでは、車両の基本性能に影響がないと判断され、評価損が認められる可能性は低いとされています。

2 車両の属性(車種、人気度、初年度登録からの期間、走行距離)

⑴ 車種・人気度

高級外車(メルセデス・ベンツ、ポルシェ等)や、中古車市場で人気のある国産高級車(レクサス、日産GTR、トヨタ・アルファード等)など、元々の資産価値が高い車両ほど、事故歴による価値の下落も大きいと判断されやすく、評価損が認められやすい傾向にあります。

⑵ 初年度登録からの期間と走行距離

新車に近い、いわゆる「高年式・低走行」の車両であることも重要な要素です。

明確な基準はありませんが、裁判例の傾向として、外国車や国産人気車種では「初年度登録から5年・走行距離6万km」、その他の国産車では「同3年・4万km」を超えると、評価損の認定に消極的になる傾向が見られます。

ただし、これは絶対的な基準ではありません。例えば、初年度登録から約4年が経過した国産ミニバンであっても、骨格部分に重大な損傷を受けたことを理由に評価損が認められた裁判例も存在します(明石簡易裁判所平成26年9月25日判決など)。

第4 評価損を立証するための具体的な方法

評価損の存在と、その具体的な金額を立証する責任は、請求する側である被害者にあります。立証のためには、以下の手順で客観的な証拠を収集することが重要です。

1 手順1:損傷と修理に関する資料を全て保管する

損傷の部位と程度を証明するための基本的な資料として、以下は必ず全て保管する必要があります。

⑴ 修理工場が作成した「修理見積書」「作業明細書」
⑵ 「修理前・修理中・修理後の写真」(特に、骨格部分の損傷が確認できる修理中の写真は極めて重要です。)

2 手順2:専門機関による意見書・査定書を取得する

第三者機関による客観的な資料は、交渉や裁判において有力な証拠となります。

⑴ 日本自動車査定協会(JAAI)の「事故減価額証明書」

JAAIは、骨格部位に損傷や修理跡がある場合に限り、有料で「事故減価額証明書」を発行します。この証明書は、保険会社との交渉において、評価損の存在を前提とした具体的な金額交渉の土台となり得ます。ただし、裁判所はこの証明書の金額に法的に拘束されるわけではありません。

⑵ 中古車販売店等の査定書

事故による価値下落を具体的に示すため、事故前後の車両価格が分かる資料や、修復歴があることを理由に減額された査定書も有効な証拠となり得ます。特に、骨格部分の修復歴があることを示す「R評価」が付された査定書は、市場価値の低下を客観的に示すものです。

3 手順3:評価損の算定方法を理解する

裁判実務上、評価損の金額は、事故車両の修理費を基準として、その一定割合を認定する手法(修理費基準法)が採用されることが大半です。

その割合は、第3で解説した「損傷の部位・程度」「車種」「年式」などの要素を総合的に考慮して判断されますが、裁判例では修理費の10%~30%程度の範囲で認められることが多くなっています。納車直後の新車や極めて希少な車両など、特段の事情がある場合は、これを上回る割合が認定されることもあります。

第5 Q&A:「評価損」に関する疑問

Q1 保険会社から「当社の基準では評価損は一切支払えません」と言われました。諦めるしかないのでしょうか?

A1 いいえ、諦める必要はありません。それは保険会社の社内的な方針に過ぎず、法的な根拠はありません。裁判所は、本稿で解説したような条件を満たす事案において、評価損を損害として認める判決を多数出しています。

Q2 評価損は、いくらくらい認められるものですか?

A2 事案により様々であり、一概には言えません。裁判では、修理費の10%~30%が一つの目安とされていますが、これはあくまで傾向です。例えば、修理費が200万円であれば、20万円~60万円の範囲で認められる可能性がある、ということになります。具体的な金額は、個別の事情に応じて判断されます。

Q3 修理費が車両の時価額を上回る「経済的全損」の場合でも、評価損は請求できますか?

A3 いいえ、できません。経済的全損の場合、賠償額は修理費ではなく、事故直前の車両の時価額に買替諸費用を加えた金額が上限となります。評価損は、あくまで修理を前提とした損害であるため、全損の事案では発生しません。

Q4 まだ車を売却していませんが、評価損を請求できますか?

A4 はい、できます。損害は事故が発生した時点で確定しており、実際に車を売却したか否かにかかわらず、価値が下落したという財産的損害は現に発生している、というのが裁判所の考え方です。

Q5 バイクや軽自動車でも評価損は認められますか?

A5 はい、認められる可能性があります。実際に、骨格部分に深刻な損傷を受けた軽自動車で評価損が認められた解決事例や、フレームに損傷を受けた希少価値の高い大型バイクで評価損が認められた裁判例も存在します。車種だけで決まるものではありません。

第6 まとめ:適正な賠償を受けるためには専門家への相談が不可欠です

交通事故による評価損は、修理費とは別に存在する、被害者の正当な財産的損害です。しかし、その請求は、保険会社との交渉の中でも特に難易度が高く、被害者個人で請求を認めさせることは極めて困難です。

評価損の請求を検討される場合は、

⑴ 損傷が自動車の骨格部分に及んでいるか

⑵ 車両の年式、走行距離、車種

⑶ 修理の内容と費用

といった点を踏まえ、客観的な証拠を準備した上で、法的な主張を組み立てる必要があります。

もしご自身の自動車保険に「弁護士費用特約」が付帯していれば、多くの場合、費用負担なく弁護士に依頼することが可能です。愛車の価値下落という損害について泣き寝入りする前に、まずは一度、交通事故問題に精通した弁護士にご相談ください。

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