「転びやすい」と伝えていたのに…施設は転倒リスクをちゃんと評価してくれていた?

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「転びやすい」と伝えていたのに…施設は転倒リスクをちゃんと評価してくれていた?

2025.07.18

第1 はじめに:「危ないと思っていたのに…」転倒リスク、見過ごされていませんか?

「入所する時、『転びやすいので気をつけてください』と何度もお願いしていたのに…」

介護施設に入所している大切なお身内が転倒し、骨折などの大きな怪我を負われた。もし、事前にご本人やご家族が転倒の危険性について施設側に伝えていたとしたら、「施設がもっと注意深く見てくれていれば、この事故は防げたのではないか?」という、やるせないお気持ちになられるのは、当然のことと存じます。

高齢者にとって転倒は、時にその後の生活を一変させてしまうほどの重大な事故につながりかねません。だからこそ、介護施設には、利用者一人ひとりが持つ転倒のリスクを、入所時から、そして日々の生活の変化に応じて、専門的な視点から正確に評価し、そのリスクに見合った適切な予防策を講じる法的義務(安全配慮義務)があります。

「転びやすい」「最近よくふらつく」「以前、家で転んだことがある」――。

こうした情報は、まさに転倒リスクの存在を示す極めて重要なサインです。施設側がこれらの情報を「重要な危険情報」として真摯に受け止め、リスク評価に正しく反映させ、具体的な対策につなげていれば、事故は回避できた可能性は十分にあります。

このコラムでは、「転びやすい」といった情報提供があったにも関わらず転倒事故が起きてしまったケースに焦点を当て、以下の法的な問題点について、介護事故に精通した弁護士が分かりやすく解説します。

1 介護施設に求められる転倒リスクアセスメント(評価)とは、具体的にどのようなものか?

2 家族や本人から伝えられた「転びやすい」という情報は、法的にどのように扱われるべきだったのか?

3 どのような場合に、リスク評価の不備として施設の法的責任を問えるのか?

4 ご家族として、何を確認し、どのように対応すべきか?

このコラムが、実際に転倒事故に遭われたご本人やご家族が、今後の対応を考える上での一助となれば幸いです。

本コラムの構成

第1 はじめに:「危ないと思っていたのに…」転倒リスク、見過ごされていませんか?

第2 介護施設に求められる「転倒リスク」の評価(アセスメント)義務:転倒予防の出発点

第3 「転びやすい」情報、施設はどう扱うべきだったのか?:情報収集と再評価の重要性

第4 施設の責任が問われる具体的なケース:リスク評価・情報軽視の事例

第5 ご家族として確認すべきこと・取るべき行動:アセスメントの実態を示す証拠

第6 Q&A:「転倒リスク評価」に関する疑問

第7 まとめ:転倒予防の第一歩は「正確なリスク評価」から

第2 介護施設に求められる「転倒リスク」の評価(アセスメント)義務:転倒予防の出発点

介護施設は、利用者に対して安全配慮義務を負っており、その根幹には「利用者の心身の状態を正確に把握する義務」があります。これを転倒事故の予防という観点から見れば、「利用者一人ひとりの転倒リスクを、適切に評価(アセスメント)する義務」と言い換えることができます。

 

1 転倒リスクアセスメントとは?

転倒リスクアセスメントとは、利用者が転倒に至る可能性(リスク)を、様々な角度から専門的に評価し、その背景にある要因を特定する一連のプロセスです。このアセスメントが正確に行われることで初めて、個々の利用者に本当に必要な、具体的な転倒予防策を計画・実施することが可能になります。

 

2 どのように評価されるべきか?

転倒のリスク要因は多岐にわたります。介護施設は、以下のような項目について、網羅的に情報を収集し、評価する必要があります。

 ⑴ 身体的要因

ア 筋力:特に下肢や体幹の筋力はどうか?

イ バランス能力:開眼・閉眼での立位保持能力は? ふらつきはないか?

ウ 歩行状態:歩行速度、歩幅、安定性はどうか? 杖や歩行器などの使用状況は?

エ 視力・視野:視力低下、白内障、緑内障などはないか?

オ 聴力:周囲の音(危険を知らせる音など)を聞き取れるか?

カ めまい・立ちくらみ:起立性低血圧などはないか?

キ 関節の痛みや可動域制限:膝や股関節などに痛みや動きの制限はないか?

 

⑵ 病歴・既往歴

ア 脳血管疾患(脳梗塞・脳出血)の後遺症:麻痺、感覚障害、注意障害など。

イ パーキンソン病:特有の歩行障害、姿勢反射障害。

ウ 整形外科疾患:骨折歴、変形性関節症、脊柱管狭窄症など。

エ 心疾患:不整脈、心不全など。

オ 糖尿病:末梢神経障害による足の感覚低下。

カ 骨粗鬆症:骨折リスクに直接影響。

 

⑶ 服薬状況

ア ふらつき・眠気を起こしやすい薬剤:睡眠薬、抗不安薬、降圧剤、利尿剤などを服用していないか?

イ 多剤服用(ポリファーマシー):多くの薬を服用していること自体がリスクを高める。最近、薬の変更はなかったか?

 

⑷ 認知機能・精神状態

ア 認知症の有無・程度:判断力、注意力、記憶力はどうか?

イ 危険認識能力:危険な場所や状況を理解できるか?

ウ せん妄:急な意識混濁、興奮などはないか?

エ 抑うつ状態、不安:活動性の低下や注意散漫につながる。

 

⑸ 生活状況・行動パターン

ア 履物:足に合っているか? 滑りにくいか?(スリッパ、サンダルはリスクが高い)

イ 日中の活動量:活動性が低いと筋力低下に、逆に過剰な活動もリスクにつながる。

ウ 排泄パターン:夜間のトイレ頻度、尿意・便意の切迫感(焦りにつながる)。

エ 睡眠状況:不眠、中途覚醒など。

 

⑹ 過去の転倒歴

ア 「過去1年以内に転倒したことがあるか?」これは最も重要なリスク因子の一つです。転倒歴がある利用者は、再度転倒する可能性が極めて高いとされています。いつ、どこで、どのような状況で転んだのか、詳しく把握する必要があります。

 

3 いつ評価すべきか?

転倒リスクは常に変化します。そのため、アセスメントは一度行えば終わりではありません。

⑴ 入所時に

まず基本情報を網羅的に収集し、初期のリスクレベルを評価します。

 

⑵ 定期的に

多くの施設では、ケアプランの見直し時期(例:3ヶ月ごと)などに合わせて、定期的な再評価を行います。

 

⑶ 状態変化時に(特に重要)

ア 転倒が発生した後:原因を分析し、リスクを再評価し、対策を見直す必要があります。

イ 入院・退院後、手術後:身体能力が変化している可能性が高いため、必ず再評価が必要です。

ウ 薬が変更・追加された後:新しい薬の副作用などを考慮し、影響を評価します。

エ 利用者の体調が悪化した時、あるいは改善した時。

オ 本人や家族から「ふらつくようになった」などの新たな情報提供があった時。 

 

4 誰が、どのように評価すべきか?

転倒リスクの要因は多岐にわたるため、チームでのアプローチが不可欠です。

⑴ 多職種連携

介護職員、看護職員、ケアマネージャー、リハビリ専門職、医師などが、それぞれの専門性を活かして情報を持ち寄り、チームとして評価・検討することが理想的です。

 

⑵ アセスメントツールの活用

客観性を高めるため、標準化された「転倒リスクアセスメントシート」や「転倒スコア」などを活用します。ただし、ツールに頼りすぎず、個別の状況を考慮することが重要です。

 

⑶ 日常生活動作(ADL)の観察

実際に利用者が歩いたり、立ち上がったりする様子を注意深く観察することも、重要な評価方法です。

 

⑷ 本人・家族からの情報収集

本人の自覚症状や、家族だけが気づく変化、自宅での生活状況などは貴重な情報源です。

施設には、これらの方法を用いて、利用者一人ひとりの転倒リスクを継続的かつ多角的に評価し、その結果を記録として明確に残す義務があります。このアセスメントが不十分であったり、形式的なものに留まっていたりすれば、それは安全配慮義務違反の問題となりえます。

第3 「転びやすい」情報、施設はどう扱うべきだったのか?:情報収集と再評価の重要性

ご本人やご家族から、「最近よくふらつく」「家で転んだことがある」といった、転倒リスクの高まりを示唆する情報が提供された場合、施設側はそれをどのように受け止め、対応すべきだったのでしょうか?

 

1 「重要な危険情報」として受け止める義務

まず大前提として、施設側は、利用者本人や家族から寄せられるこれらの情報を、単なる「感想」や「心配事」として聞き流すのではなく、転倒事故につながる可能性のある「重要な危険情報」として真摯に受け止め、記録し、具体的な対策につなげる義務があります。

 

2 情報収集の重要性

⑴ 本人の訴えを軽視しない

本人が「ふらつく」「怖い」などと訴える場合、その背景にある原因(体調の変化、薬の影響、不安など)を探る必要があります。

 

⑵ 家族からの情報を積極的に収集し、重視する

ア 入所時の情報:自宅での生活状況、過去の転倒歴、持病などは、初期アセスメントの基礎となる極めて重要な情報です。

イ 面会時・連絡時の情報:「最近、歩くのが遅くなった気がする」といった家族からの情報は、状態変化のサインである可能性があります。施設は、これらの情報を記録し、ケアチーム内で共有する必要があります。

「家族だから心配しすぎているのだろう」と安易に判断することは、注意義務違反につながりかねません。

 

⑶ 医療機関からの情報の確実な把握

既往歴や服薬内容に関する医療機関からの情報(診療情報提供書など)は、リスク評価の根幹に関わる情報です。

 

3 情報に基づく「再アセスメント」の実施義務

本人や家族から新たなリスク情報が提供された場合、あるいは日々の観察の中で職員が転倒リスクの高まりを示唆する変化に気づいた場合は、「状態変化時」として、速やかに転倒リスクの再アセスメントを実施する義務があります。

⑴ 「様子を見ましょう」は危険信号

具体的な評価を行わずに、「しばらく様子を見ましょう」と対応を先延ばしにすることは、その間に事故が発生するリスクを放置するに等しい行為です。

 

⑵ 客観的な評価

再アセスメントでは、単なる主観的な判断ではなく、必要に応じてバランス能力テストや歩行状態の再確認など、客観的な評価を行うべきです。

 

⑶ 評価結果の記録と共有

再アセスメントの結果と、それに基づく対応方針の変更は、必ず記録に残し、関係職員全員で共有しなければなりません。 

 

4 アセスメント結果のケアプランへの具体的な反映

再アセスメントの結果、リスクが高まっていると判明した場合は、速やかにケアプランを見直し、具体的な転倒予防策を追加・変更する必要があります。

⑴ 具体的な対策の記載

「ふらつきが見られるため、歩行時は必ず職員が付き添う」「夜間トイレ覚醒時は、離床センサーが鳴ったら訪室し、トイレ誘導を行う」など、誰が見ても何をすべきか分かるように、具体的に記載します。

 

⑵ 対策の実行とモニタリング

変更されたケアプランが現場の職員に確実に伝達・実行されているかを確認し、その効果を継続的に観察・評価していく必要があります。

もし、施設側が、本人や家族から提供された「転びやすい」という重要な情報を軽視したり、リスクの高まりを示す兆候に気づきながらも、適切な再アセスメントや具体的な対策の実施を怠っていたとしたら、それは「予見可能であったリスクを放置した」ことになり、安全配慮義務違反として、法的責任を問われる可能性が極めて高くなります。

第4 施設の責任が問われる具体的なケース:リスク評価・情報軽視の事例

では、転倒リスクのアセスメントや情報提供の扱いに関して、具体的にどのような場合に施設の責任が問われやすいのでしょうか。典型的なケースを5つご紹介します。

 

1 家族からの「転倒歴」情報を軽視し、十分な対策なく転倒

⑴ 状況

入所時の面談で、家族が「母は自宅で何度か転んだことがあります。特に夕方になると足元がふらつくようです」と具体的に伝えた。アセスメントシートには「転倒歴あり」と記載されたものの、ケアプランには「転倒に注意」とあるだけで、具体的な見守り強化策は行われなかった。入所後間もなく、利用者が夕方に居室内で転倒し、大腿骨を骨折した。

 

⑵ 法的評価

家族からの具体的な情報により、転倒の予見可能性は極めて高かったと言えます。それにもかかわらず、具体的な回避措置を講じなかった点で、注意義務違反が認められる可能性が非常に高いケースです。「転倒に注意」という抽象的な目標だけでは、義務を果たしたことにはなりません。

 

2 入所時のアセスメントが形式的で、リスクが見過ごされた

⑴ 状況

入所時のアセスメントシートの転倒リスクに関する項目が、簡単なチェックのみで済まされ、利用者が複数のふらつきを起こしやすい薬を服用していた点も十分に考慮されなかった。入所後、服薬後のふらつきが原因で転倒した。

 

⑵ 法的評価

施設には、専門職として、利用者の状態を多角的に評価し、潜在的なリスクを発見する義務があります。形式的なアセスメントしか行わず、本来把握できたはずのリスクを見過ごした結果、事故が発生した場合、アセスメント義務違反として責任を問われる可能性があります。

 

3 状態変化のサインがあったのに、再評価・プラン変更せず転倒

⑴ 状況

利用者が「最近、立ち上がる時にふらつく」と職員に訴え、介護記録にも「歩行時に傾く様子が見られる」などの記載が増えていた。しかし、施設側は再アセスメントを行わず、ケアプランも変更しないままだった。ある夜、利用者が一人でトイレに行こうとして転倒した。

 

⑵ 法的評価

状態変化のサインを認識できたはずなのに、適切な再評価や対策の変更を行わずに漫然と従前のケアを継続し、予見可能であった転倒を発生させた場合、注意義務違反が認められる可能性が高いです。記録に変化の兆候があるのに、それに対するアクションの記録がない場合、注意義務違反を問われる可能性が高いです。

 

4 転倒スコア等で高リスクと判定されたのに、対策が不十分

⑴ 状況

施設で使用している転倒リスクスコアで、利用者が「高リスク」と判定された。しかし、ケアプランには「見守り強化」と書かれているだけで、いつ、誰が、どのように見守るのか不明確だった。結果、見守りが手薄な時間帯に転倒した。

 

⑵ 法的評価

アセスメントツールで高リスクと客観的に判定された場合、施設はより一層具体的な転倒予防策を講じる義務を負います。リスクの高さを認識していながら、対策が曖昧・不十分であった結果、事故が発生した場合、注意義務違反を問われる可能性が高いです。

 

5 薬の変更によるふらつきリスクを予見できたのに、対策を怠った

⑴ 状況

利用者が新しく睡眠導入剤(ふらつきの副作用がある薬剤)の服用を開始した。看護師はリスクを認識していたが、その情報が介護職員に十分に伝わっておらず、特別な注意喚起もされなかった。利用者は服薬後、夜間にトイレへ行こうとしてふらつき、転倒した。

 

⑵ 法的評価

薬剤の変更に伴う新たな転倒リスクは十分に予見可能でした。それにも関わらず、予防策(例:服薬後の観察強化、夜間のトイレ誘導の徹底など)を講じなかったこと、情報共有や連携を怠ったことについて、施設の注意義務違反が問われる可能性があります。

第5 ご家族として確認すべきこと・取るべき行動:アセスメントの実態を示す証拠

施設側が転倒リスクを適切に評価・対応していたかを明らかにするためには、客観的な証拠、特にアセスメントやケアプランに関する記録が極めて重要になります。

 

 1 事故前の情報提供に関する記録・記憶の整理

⑴ いつ、誰に、どのような情報を伝えたか?

「家でよく転んでいた」「最近ふらつくと言っていた」など、転倒リスクに関する情報を、施設の誰に伝えたか、具体的に記録しましょう。

 

⑵ 情報提供を裏付けるものはあるか?

連絡帳、メモ、メールなどを確認しましょう。他のご家族の記憶も重要です。

 

2 介護記録の開示請求と、アセスメント関連記録の重点的な分析

施設に対して介護記録一式の開示を請求し、特に以下の記録に注目して分析します。

 

⑴ アセスメントシート

ア 転倒リスクに関する評価項目は網羅されているか?

イ 家族から提供された情報(転倒歴、ふらつきの訴えなど)は、記載・反映されているか?

ウ 状態変化に応じた再評価は行われているか?

 

⑵ ケアプラン(介護サービス計画書)

ア アセスメントで評価されたリスクが、解決すべき課題として認識されているか?

イ そのリスクに対し、具体的かつ個別的な予防策が記載されているか?(「見守る」ではなく「歩行時は必ず横について介助する」など)

 

⑶ 経過記録(介護記録・看護記録)

ア 「ふらつきあり」などのリスクを示唆する記述はあるか? それに対してどのような対応がとられたか?

 

⑷ カンファレンス記録・リハビリテーション実施記録

ア 転倒リスクについて、多職種で検討された記録はあるか? 専門職による評価は記載されているか? 

 

3 医療記録の確認

⑴ 医療機関からの提供情報

診療情報提供書などに、転倒リスクに関する記載がなかったか確認します。

証拠分析のポイント

1 情報の一貫性:家族からの情報、アセスメント、ケアプラン、日々の記録の内容に矛盾はないか?

2 リスクと対策のバランス:把握されたリスクのレベルに対して、対策は十分かつ具体的か?

3 記録の形骸化:アセスメントやケアプランの見直しが、単なる日付更新になっていないか?

これらの記録を丁寧に分析することで、施設がリスク評価を適切に行い、具体的な対策に繋げていたのか、それとも評価が不十分なまま漫然とケアを続け、予見可能な事故を発生させてしまったのか、その実態が見えてきます。記録の分析は複雑な場合も多いため、ぜひ弁護士にご相談ください。

第6 Q&A:「転倒リスク評価」に関する疑問

転倒リスクのアセスメントに関して、ご家族からよくある質問にお答えします。

 Q1:施設では定期的にアセスメントを行っていたようです。それでも転倒した場合、施設の責任は問えないのでしょうか?

 A1:アセスメントを行っていたという事実だけでは、施設の責任は免除されません。重要なのは、そのアセスメントの「質」と「実効性」です。評価が形式的で、その結果が具体的なケアに結びついていなければ、アセスメント義務を果たしたとは言えず、責任を問える可能性はあります。

 

 Q2:本人は「自分はまだ歩ける」と言って、リスクを認めようとしませんでした。この場合でも、施設の評価不足を問えますか?

 A2:はい、問える可能性はあります。施設は、本人の言葉だけでなく、客観的な身体機能や病歴などを総合的に評価し、専門職としてリスクを判断する義務があります。本人の意向を尊重することは大切ですが、それを理由に客観的なリスクを無視することは、施設の注意義務違反となりえます。

 

 Q3:施設の転倒スコアでは、リスクは「中程度」と判定されていました。それでも転倒した場合、責任追及は難しいですか?

 A3:いいえ、一概にそうとは言えません。「中程度」であっても、一定のリスクがあることは認識されているはずです。そのリスクに対して、どのような具体的な対策が計画・実行されていたかが重要になります。「高リスク」ではないからといって、何の対策も取られていなければ、責任を問われる可能性があります。

 

 Q4:入所施設に理学療法士などのリハビリ専門職がいません。それでも、適切なリスク評価は求められるのでしょうか?

 A4:はい、求められます。専門職がいない場合でも、看護師や介護職員などが、可能な範囲でリスク評価を行うべきです。また、施設内での評価が困難な場合は、外部の専門機関と連携し、助言や評価を求める義務も含まれると考えられます。専門職がいないことを理由に評価を怠っていれば、責任を問われる可能性があります。

 

Q5:医師から処方された薬の副作用で転倒した場合、施設の責任ではないのでは?

 A5:薬の副作用による転倒であっても、施設の責任が問われる可能性は十分にあります。施設には、利用者の服薬状況を把握し、副作用のリスクが予見される場合は、見守りの強化などの対策を講じる義務があります。また、ふらつき等の変化があれば医師に報告し、薬の調整を促す義務もあります。これらの義務を怠れば、施設の安全配慮義務違反が問われます。

第7 まとめ:転倒予防の第一歩は「正確なリスク評価」から

「転びやすいかもしれない」――その小さなサインやご家族からの情報は、大きな事故を防ぐための重要な警告です。介護施設には、そのサインを見逃さず、利用者一人ひとりの転倒リスクを継続的かつ多角的に評価(アセスメント)し、その結果に基づいて個別的で具体的な予防策を講じる、極めて重要な法的義務があります。

アセスメントは、単に書類を作成するための形式的な作業ではありません。それは、利用者の安全を守り、尊厳ある生活を支えるための、個別ケアの出発点なのです。

もし、ご家族が伝えた「転びやすい」という情報が軽視されたり、リスクの兆候が見過ごされたり、評価結果が適切な対策に結びつかなかったりした結果、転倒事故という悲しい結末を迎えてしまったのであれば、それは「仕方ない」ことではありません。施設の安全配慮義務違反として、法的責任を問える可能性があります。

 事故の真相を知り、正当な権利を実現するためには、

1 介護記録(特にアセスメントシートやケアプラン)を徹底的に確認し、リスク評価の実態を把握すること。

2 家族からの情報提供の記録など、客観的な証拠を収集すること。

3 そして、介護事故に詳しい弁護士に相談し、専門的な視点から分析・評価を受けること。

が不可欠です。

 転倒リスクの適切な評価と、それに基づく予防策の実施は、安全な介護の根幹です。その根幹が揺らいでいなかったか、私たちが専門家として、一緒に検証させていただきます。疑問や不安があれば、どうか一人で抱え込まず、私たちにご相談ください。

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