通勤・業務中の交通事故、加害者側の保険と労災どちらを使うべきか?労災保険の5つのメリット

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通勤・業務中の交通事故、加害者側の保険と労災どちらを使うべきか?労災保険の5つのメリット

2026.04.23

第1 はじめに:通勤・業務中の事故における治療費支払いの選択肢

通勤中や業務中に交通事故の被害に遭った場合、被害者の方は、治療費の支払いについて複数の選択肢を持つことになります。

多くの場合、加害者側の任意保険会社から「治療費は当方で全て対応しますので、お任せください」という申し出(任意一括対応)があり、言われるままにその手続きで治療を開始する方がほとんどです。

しかし、通勤災害・業務災害の場合、被害者には「労災保険」を利用して治療を受けるという、もう一つの重要な権利があります。そして、多くの場合、加害者側の保険に全てを任せるのではなく、労災保険を優先して利用する方が、被害者にとって大きな利益となる可能性があります。

本稿では、通勤・業務中の事故において、加害者側の保険(自賠責保険)と労災保険のどちらを使うべきか、そして、被害者が労災保険を利用することで得られる具体的な5つのメリットについて解説します。

本稿の構成

第1 はじめに:通勤・業務中の事故における治療費支払いの選択肢

第2 治療に使える保険制度の整理

第3 加害者側保険より有利?労災保険を利用すべき「5つのメリット」

第4 労災保険を利用するための手続きの概要

第5 Q&A:「労災保険の利用」に関する疑問

第6 まとめ:通勤・業務中の事故では、まず労災保険の利用をご検討ください

第2 治療に使える保険制度の整理

まず、通勤・業務中の交通事故で利用可能性がある2つの保険制度の関係を整理します。

1 労災保険(労働者災害補償保険)

業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害または死亡に対して、必要な保険給付を行う国の制度です。

2 自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)

交通事故の被害者を救済するため、加害者が負うべき法律上の損害賠償責任を補償する強制保険です。加害者側の任意保険会社による治療費の直接支払い(任意一括対応)は、この自賠責保険と任意保険を一体として運用しているものです。

 

(健康保険)

業務災害・通勤災害「以外」の病気や怪我に対して使用されるのが原則です。したがって、労災保険の対象となる通勤・業務中の交通事故では、原則として健康保険は使用できないことになっています。

 

被害者は、労災保険と自賠責保険のどちらから補償を受けるか、原則として自由に選択することができます。

第3 加害者側保険より有利?労災保険を利用すべき「5つのメリット」

加害者側の保険会社の申し出に応じる前に、労災保険を利用した場合の以下のメリットを検討すべきです。

1 メリット1:治療費の自己負担がなく、治療費打ち切りのリスクが低い

労災保険を利用する場合、労災指定医療機関にかかれば、窓口での治療費の支払いは発生しません。

また、加害者側の任意保険会社が営利目的で早期に治療費の支払いを打ち切ろうとすることがあるのに対し、労災保険は労働者の保護を目的とするため、医学的に治療の必要性が認められる限り、比較的長期にわたり安心して治療に専念できる傾向にあります。

2 メリット2:手厚い休業補償が受けられる

事故による怪我で仕事を休んだ場合、労災保険からは、休業4日目以降、「休業(補償)給付」として給付基礎日額(事故前3ヶ月間の平均賃金)の60%と、「休業特別支給金」として同じく20%、合計で給付基礎日額の80%が支給されます。

このうち、休業特別支給金(20%分)は、福祉的な給付とされているため、後に加害者側へ損害賠償請求をする際に、受け取った給付として収入から差し引く必要がありません(損益相殺の対象外です)。そのため、特別支給金の20%の分だけ多く受け取れることになります。

3 メリット3:被害者に過失があっても給付額が減額されない(過失相殺なし)

これは労災保険を利用する最大のメリットの一つです。

自賠責保険や任意保険からの賠償金は、被害者自身の過失割合に応じて減額されます(過失相殺)。例えば、被害者に2割の過失があれば、賠償金は2割減額されます。

一方、労災保険からの給付(治療費や休業補償など)には、過失相殺という概念がありません。したがって、被害者にたとえ大きな過失があったとしても、受け取れる保険給付の額は減額されません。

4 メリット4:後遺障害の等級認定で有利な場合がある

将来、後遺障害が残った場合、自賠責保険とは別に、労災保険独自の後遺障害等級認定を受けることができます。後遺障害等級を判断するための基準自体は、労災と自賠責で基本的には同じですが、認定に至るプロセスが異なります。労災では、労働基準監督署が専門医に意見を求める面談を行うなど、自賠責の書面審査よりも詳細な調査が行われることがあります。その結果、自賠責保険よりも実態に即した等級が認定され、有利な結果となる可能性があります。

また、労災保険で後遺障害等級が認定されると、障害(補償)給付とは別に、障害特別支給金や障害特別年金といった、自賠責保険にはない独自の給付も受けられます。

5 メリット5:自賠責保険等からの慰謝料も別途請求できる

労災保険の給付項目には、精神的苦痛に対する「慰謝料」は含まれていません。

そのため、治療費や休業補償などを労災保険から受け取りつつ、慰謝料(入通院慰謝料や後遺障害慰謝料)については、別途、加害者側の自賠責保険・任意保険に対して請求することができます。それぞれの制度の良い部分を組み合わせて利用することが可能です。

第4 労災保険を利用するための手続きの概要

労災保険を利用するための基本的な流れは以下の通りです。

1 勤務先への報告

まず、通勤中・業務中に交通事故に遭ったことを速やかに勤務先に報告し、労災保険の申請手続きに協力してもらいます。

2 労災指定医療機関の受診

労災指定医療機関を受診すれば、窓口での費用負担なく治療が受けられます。指定外の医療機関でも、一度費用を立て替えて後から請求することが可能です。

3 請求書の提出

医療機関の窓口に、所定の請求書(例:療養(補償)給付請求書 様式第5号または第16号の3)を提出します。この請求書には、勤務先の証明印が必要です。

4 労働基準監督署による認定

提出された書類に基づき、管轄の労働基準監督署が業務災害または通勤災害に該当するかを調査し、認定の判断を行います。

第5 Q&A:「労災保険の利用」に関する疑問

Q1 会社が労災申請に協力的ではありません。「会社の評判が悪くなる」と言われました。

A1 労災保険の利用は労働者の正当な権利であり、会社がそれを拒否することはできません(労災隠しに当たります)。会社が協力しない場合でも、労働基準監督署に相談すれば、被害者自身で申請手続きを進めることが可能です。

Q2 アルバイトやパートタイマーでも労災保険は使えますか?

A2 はい、使えます。労災保険は、正社員、契約社員、パート、アルバイトといった雇用形態に関わらず、全ての労働者に適用されます。

Q3 加害者側の保険会社から「労災ではなく、こちらで対応します」と強く言われました。

A3 どちらの保険を利用するかは、被害者自身が決定する権利があります。保険会社の提案に応じる義務はありません。メリット・デメリットを比較検討した上で、ご自身の意思を明確に伝えてください。判断に迷う場合は、弁護士にご相談ください。

Q4 労災保険を使うと、加害者に請求できる金額が減ってしまうのではないですか?

A4 いいえ、最終的に受け取れる総額で不利になることは通常ありません。労災保険から受け取った給付(治療費や休業補償など)は、加害者側に請求する損害額から差し引かれますが、労災保険からしか支給されない特別支給金や、過失相殺されないメリットがあるため、多くの場合、労災保険を利用した方が有利になります。

Q5 すでに加害者側の保険(任意一括対応)で治療を始めてしまいましたが、今から労災保険に切り替えられますか?

A5 はい、可能です。速やかに勤務先に報告し、労働基準監督署および保険会社に連絡の上で、労災保険への切り替え手続きを進めてください。

第6 まとめ:通勤・業務中の事故では、まず労災保険の利用をご検討ください

通勤中や業務中に交通事故に遭われた場合、加害者側保険会社の「任意一括対応」の申し出に安易に応じる前に、まず「労災保険」を利用できないかを検討することが、被害者の利益を守る上で極めて重要です。

特に、ご自身の過失が大きいケースでは、過失相殺のない労災保険のメリットは絶大です。また、治療費の打ち切りを心配することなく、手厚い休業補償を受けながら、安心して治療に専念できるという利点も見逃せません。

労災保険と加害者側の任意保険のどちらを優先すべきか、また、両制度をどのように組み合わせて請求していくかは、専門的な判断を要する場合があります。最適な選択をするためにも、お早めに交通事故と労働災害の両方に精通した弁護士にご相談ください。

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