弁護士コラム

膝の不安定感は後遺障害。「後十字靭帯損傷(PCL損傷)」を証明するストレスレントゲン検査の重要性

2026.04.30

第1 はじめに:見過ごされやすい膝の不安定感という後遺症

交通事故、特に自動車の助手席に乗車中、ダッシュボードに膝を強く打ち付ける事故(ダッシュボード損傷)によって、膝関節の中にある後十字靭帯(PCL)を損傷することがあります。

後十字靭帯は膝関節で最も強固な靭帯であるため、その損傷は初期段階で見過ごされたり、症状が軽く評価されたりすることも少なくありません。しかし、治療後も膝の痛みや「ぐらつき」「不安定感」といった症状が残存した場合、これらの症状は後遺障害として法的に評価され、適切な賠償を受けるべき対象となります。

後遺障害として認定されるには、被害者自身の自覚症状を訴えるだけでは不十分であり、症状の存在と程度を客観的な検査によって医学的に証明することが極めて重要です。

本稿では、後十字靭帯損傷後に残る膝の不安定感が、どのような後遺障害に該当するのか、そして、その立証の鍵となる「ストレスレントゲン検査」の重要性について解説します。

本稿の構成

第1 はじめに:見過ごされやすい膝の不安定感という後遺症

第2 後十字靭帯(PCL)損傷で認定されうる後遺障害等級

第3 後遺障害認定の核心:ストレスレントゲン検査の重要性

第4 適切な後遺障害認定を受けるためのポイント

第5 Q&A:「PCL損傷と後遺障害」に関する疑問

第6 まとめ:客観的な検査による立証が適正な補償への道です

第2 後十字靭帯(PCL)損傷で認定されうる後遺障害等級

後十字靭帯損傷後に残存した症状は、主に膝関節の「機能障害(動揺関節)」または「神経症状」として、後遺障害等級が認定される可能性があります。どちらを目標とするかによって、立証すべき内容が異なります。

1 機能障害(動揺関節)

膝関節の安定性が失われ、異常なぐらつき(動揺性)が生じた状態を「動揺関節」といいます。その不安定性の程度を客観的な数値で証明することにより、以下の等級が認定される可能性があります。

⑴ 第8級10号:「常に硬性補装具を必要とするもの」

⑵ 第10級11号:「時々硬性補装具を必要とするもの」

⑶ 第12級7号:「重激な労働等の場合に限り硬性補装具を必要とするもの」

2 神経症状

動揺性の程度が上記の等級の基準に達しない場合でも、膝の痛みなどの症状が残存した場合は、神経症状として以下の等級が認定される可能性があります。

⑴ 第12級13号:「局部に頑固な神経症状を残すもの」

MRIなどの画像所見によって、痛みの原因となる器質的な損傷が医学的に「証明」できる場合に認定されます。

⑵ 第14級9号:「局部に神経症状を残すもの」

画像による直接の証明は困難でも、事故状況や治療経過、症状の一貫性などから、症状の存在が医学的に「説明」可能な場合に認定されます。

第3 後遺障害認定の核心:ストレスレントゲン検査の重要性

膝の動揺関節(機能障害)として後遺障害等級の認定を目指す上で、ストレスレントゲン検査は決定的に重要な役割を果たします。

1 「不安定感」を客観的な数値で示す必要性

後遺障害の認定機関は、被害者の「膝がぐらつく」という訴えだけでは、その不安定性の程度を客観的に評価できません。MRI検査は靭帯断裂という「事実」を証明できますが、後遺障害等級の判断基準となる不安定性の「程度」を数値で示すことはできません。そのため、関節の動揺がどの程度生じているのかを、誰が見ても分かる数値として示す必要があります。

2 ストレスレントゲン検査による動揺性の計測

ストレスレントゲン検査とは、専門の器具などを用いて膝関節に一定のストレス(負荷)をかけた状態でレントゲンを撮影し、脛骨(すねの骨)が後方へどの程度ずれるか(後方動揺性)をミリメートル単位で計測する検査です。

この検査の重要な点は、必ず負傷した膝(患側)と、負傷していない側の膝(健側)の両方を撮影し、その動揺性の差を比較することです。この「健側との差」が、事故によって生じた異常な動揺性の客観的な証拠となります。

3 後遺障害等級と検査数値の目安

自賠責保険における後遺障害認定の実務では、ストレスレントゲン検査で計測された健側との差が、等級を判断する上で直接的な基準として用いられています。一般的に、以下の数値が目安とされています。

⑴ 健側との比較で12mm以上の動揺性:第8級10号に該当する可能性

⑵ 健側との比較で8mm~10mm程度の動揺性:第10級11号に該当する可能性

⑶ 健側との比較で5mm~8mm程度の動揺性:第12級7号に該当する可能性

第4 適切な後遺障害認定を受けるためのポイント

症状固定の段階で適切な後遺障害認定を受けるためには、被害者側から主体的に行動することが求められます。

1 後遺障害の申請は「被害者請求」で行う

後遺障害の申請には、加害者側の保険会社に手続きを任せる「事前認定」と、被害者自身が必要な資料を全て集めて申請する「被害者請求」があります。PCL損傷のように立証が難しい事案では、提出する証拠を被害者側で完全にコントロールできる「被害者請求」を選択することが極めて重要です。

2 症状固定前に主治医へ検査を依頼する

後遺障害診断書の作成を依頼する際に、後十字靭帯損傷による動揺関節の等級認定を目指していることを主治医に明確に伝え、その立証のためにストレスレントゲン検査の実施を依頼することが重要です。

3 健側の撮影と比較を必ず依頼する

検査の際には、患側だけでなく、必ず健側も同じ条件で撮影し、両者の動揺性の差を計測してもらうよう依頼してください。

4 診断書に具体的な検査結果を記載してもらう

検査を実施するだけでは不十分です。検査によって明らかになった「ストレスレントゲン検査の結果、健側との比較で◯mmの後方動揺性が認められる」といった具体的な数値を、後遺障害診断書に明確に記載してもらう必要があります。この記載がなければ、せっかく実施した検査結果が評価されないリスクがあります。

第5 Q&A:「PCL損傷と後遺障害」に関する疑問

Q1 MRI検査で「後十字靭帯断裂」と診断されています。これだけでは不十分ですか?

A1 いいえ、不十分です。MRI検査は靭帯が断裂しているという「事実」を証明できますが、その結果としてどの程度の不安定性(動揺性)が生じているかという「程度」を客観的な数値で示すことはできません。動揺関節の等級認定のためには、MRI検査とは別にストレスレントゲン検査が原則として必要です。

Q2 主治医がストレスレントゲン検査の実施に協力的ではありません。

A2 医師の専門は治療であり、後遺障害の立証手続きではありません。検査の法的な重要性を丁寧に説明しても応じてもらえない場合は、交通事故案件に精通した他の整形外科でセカンドオピニオンを求め、そこで検査を受けることも有効な選択肢となります。

Q3 事故からかなり時間が経ってから膝の不安定感に気づきました。後遺障害として認められますか?

A3 事故と症状との因果関係の証明が大きな課題となります。事故直後から症状が一貫して続いていることを、カルテの記録などで示す必要があります。事故後、期間を空けてから症状を訴えた場合、因果関係を否定されるリスクが高まります。

Q4 動揺性の数値が等級認定の基準にわずかに届きません。諦めるしかないですか?

A4 いいえ。動揺関節としての等級が認められなくても、痛みが残存している場合は、神経症状として第12級13号や第14級9号が認定される可能性があります。その場合は、痛みの原因や症状の一貫性を立証する方針に切り替えて請求を検討します。

第6 まとめ:客観的な検査による立証が適正な補償への道です

交通事故による後十字靭帯損傷後の膝の不安定感は、被害者の生活に大きな支障を及ぼす後遺症であり、正当な賠償を受けるべきものです。

しかし、その認定は、被害者の訴えだけでは勝ち取ることはできず、「ストレスレントゲン検査」という客観的な医学的証拠によって、不安定性の程度をミリメートル単位の数値で立証できるかどうかにかかっています。

症状固定の段階で適切な検査を受け、その結果を後遺障害診断書に正確に反映させ、被害者請求の手続きを主体的に進めるためには、後遺障害申請に関する専門的な知識と経験が不可欠です。膝の症状にお悩みの方は、後遺障害の申請手続きに精通した弁護士に早期にご相談ください。

弁護士 横川 主磨

執筆者

弁護士 横川 主磨

所属

  • 愛媛弁護士会(入会予定)

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