弁護士コラム

死亡事故の損害賠償請求。逸失利益・慰謝料・葬儀費用の内訳と相続手続き

2026.02.26

第1 はじめに:死亡事故における損害賠償請求の概要

交通事故により大切なご家族を突然亡くされたご遺族は、計り知れないご心痛の中、加害者側との交渉や数多くの法的な手続きに直面することになります。

しかし、今後の生活の再建を図るためにも、加害者に対し、法律に基づいた適正な損害賠償を請求することが不可欠です。

本稿では、ご遺族が請求できる損害賠償の具体的な内訳と、その算定方法、そして賠償金を受け取るまでの法的な手続きの流れについて、解説します。

本稿の構成

第1 はじめに:死亡事故における損害賠償請求の概要

第2 誰が請求するのか:損害賠償請求権の相続

第3 死亡事故で請求できる損害賠償の具体的な内訳

第4 賠償金受け取りまでの法的な手続きの流れ

第5 Q&A:「死亡事故」に関する疑問

第6 まとめ:死亡事故の賠償請求は弁護士への相談が不可欠です

第2 誰が請求するのか:損害賠償請求権の相続

死亡事故の損害賠償請求は、まず「誰が請求の権利を持つのか」を法的に確定させることから始まります。

 

1 損害賠償請求権の相続

故人(被害者)が事故によって被った損害(逸失利益や慰謝料など)を賠償するよう加害者に請求する権利は、財産の一つとして、民法の規定に従い相続人に引き継がれます。

なお、法的には、各相続人は自分の相続分に応じた金額を個別に請求することも可能ですが、保険会社との実務的な交渉においては、紛争を一度に解決するために、相続人全員の合意(または代表者の選任)を求められることが一般的です。

 

2 法定相続人の範囲と順位

法律で定められた相続人(法定相続人)は以下の通りです。配偶者は常に相続人となります。

⑴ 第1順位:子(子が既に死亡している場合は孫)

⑵ 第2順位:直系尊属(父母、祖父母など)※第1順位の相続人がいない場合

⑶ 第3順位:兄弟姉妹(既に死亡している場合はその子)※第1、第2順位の相続人がいない場合

 

3 相続人の調査

誰が正当な相続人であるかを対外的に証明するため、故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本等を全て取り寄せ、相続関係を明らかにする作業(相続人調査)が必要です。

第3 死亡事故で請求できる損害賠償の具体的な内訳

死亡事故の損害賠償は、主に「財産的損害」と「精神的損害」に大別されます。

 

1 財産的損害

⑴ 死亡逸失利益

故人が事故に遭わなければ、将来得られたはずの収入や利益のことです。損害賠償額の中で最も大きな割合を占めることが多く、以下の式を基本に算定します。

基礎収入額 × (1 – 生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

ア 基礎収入額

給与所得者であれば事故前年の源泉徴収票の金額、事業所得者であれば確定申告書の所得額が基本となります。専業主婦(主夫)や学生、幼児であっても、将来の収入の可能性が認められ、賃金センサス(性別・学歴別の平均賃金)を基に算定されます。

イ 生活費控除率

故人が生きていればかかったはずの生活費を、将来の収入から差し引くための割合です。故人の家庭内での立場により、概ね以下の割合が目安となります。

(ア)一家の支柱:30~40%

被扶養者の人数などによって変動します。

(イ)一家の支柱以外

女性(主婦、独身、幼児等含む):30%

男性(独身、幼児等含む):50%

⑵ 葬儀関係費用

原則として、150万円が上限として認められます。これを下回る場合は、実際に支出した額となります。通夜・告別式の費用、火葬料、墓碑建立費、仏壇・仏具購入費などが含まれます。なお、香典返し費用は賠償の対象外です。

⑶ 事故発生から死亡までの損害

事故後、治療を経て亡くなられた場合は、死亡に至るまでの治療費、付添看護費、入院雑費、交通費、入通院慰謝料なども賠償の対象となります。

 

2 精神的損害(死亡慰謝料)

死亡慰謝料には、故人本人の精神的苦痛に対する慰謝料と、ご遺族固有の精神的苦痛に対する慰謝料の2種類が含まれます。

裁判実務(弁護士基準)では、これらを合算した金額として、故人の家庭内での立場に応じて以下の金額が相場とされています。

⑴ 一家の支柱:2,800万円

⑵ 母親、配偶者:2,500万円

⑶ その他(独身の男女、子供、幼児等):2,000万円~2,500万円

※上記はあくまで目安であり、加害者に飲酒運転やひき逃げなどの悪質な事情がある場合には、増額されることがあります。

第4 賠償金受け取りまでの法的な手続きの流れ

ご遺族が賠償金を受け取るまでの手続きは、概ね以下の流れで進みます。

 

1 相続人の調査・確定

戸籍謄本等を取得し、法的な請求権を持つ相続人全員を確定させます。

 

2 損害額算定のための資料収集

故人の収入を証明する資料(源泉徴収票、確定申告書など)、葬儀費用の領収書、事故に関する資料(交通事故証明書、実況見分調書など)を収集します。

 

3 加害者側保険会社との交渉

相続人全員の合意のもと、収集した資料に基づいて算定した損害賠償額を、加害者側の任意保険会社に請求し、交渉を開始します。

 

4 示談成立または訴訟提起

交渉がまとまれば、相続人全員が署名・押印した示談書を取り交わします。交渉が決裂した場合は、裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することになります。

 

5 賠償金の受領と分配

示談または判決によって確定した賠償金を受領し、法定相続分または遺産分割協議で定めた割合に従って、各相続人に分配します。

第5 Q&A:「死亡事故」に関する疑問

Q1 保険会社から早々に示談金の提示がありましたが、応じるべきでしょうか?

A1 いいえ、安易に応じるべきではありません。保険会社が初期に提示する金額は、裁判実務上の基準(弁護士基準)よりも大幅に低いことが大半です。必ず、提示された各項目の金額が適正か、弁護士に相談して精査する必要があります。

 

Q2 相続人の中に連絡が取れない人や、交渉に協力してくれない人がいます。

A2 相続人全員の合意がなければ、原則として示談は成立しません。行方不明者がいる場合は不在者財産管理人の選任申立て、協力が得られない場合は遺産分割調停など、家庭裁判所での手続きが必要となる場合があります。このようなケースでは弁護士のサポートが不可欠です。

 

Q3 故人に多額の借金があった場合、どうすればよいですか?

A3 損害賠償請求権はプラスの財産ですが、借金はマイナスの財産です。家庭裁判所で「相続放棄」の手続きをとれば、借金を相続しない代わりに、故人本人分の損害賠償請求権も放棄することになります。ただし、ご遺族固有の慰謝料は相続財産ではないため、相続放棄をしても請求可能です。判断には専門知識を要するため、速やかに弁護士にご相談ください。

 

Q4 示談交渉は、いつ頃から始めるのがよいのでしょうか?

A4 四十九日の法要などが終わり、ご遺族の皆様の気持ちが少し落ち着いてからで構いません。ただし、損害賠償請求権には、原則として「損害及び加害者を知った時(通常は死亡時)から5年」という時効期間がありますので、注意が必要です。

第6 まとめ:死亡事故の賠償請求は弁護士への相談が不可欠です

死亡事故の損害賠償請求は、賠償額が極めて高額になる一方で、その算定は複雑であり、相続という法律問題が必ず絡んできます。

大切なご家族を失った深い悲しみの中、ご遺族だけで不慣れな法的手続きや、知識と経験が豊富な保険会社の担当者との交渉に臨むことは、精神的にも時間的にも非常に大きな負担となります。

適正な賠償を受けるために、また、ご遺族の皆様の法的な手続きに関する負担を軽減するためにも、できるだけ早い段階で、交通事故問題に精通した弁護士に相談されることを強くお勧めします。

弁護士 横川 主磨

執筆者

弁護士 横川 主磨

所属

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